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レポート ビジネス,ワークショップ,社会課題,経営

【レポート】第4回ワークショップ「愛され必要とされる企業になる瞬間」エーゼロ株式会社 代表取締役・牧大介さん

開催レポート

2017.4.25 (火) 19:00-21:15

「ワクワクしている人のところには、面白い人が集まって新しい何かが生まれる」
人づくりから地域経済を再構築する地方創生モデルの横展開を目指すエーゼロ株式会社代表取締役の牧大介さんのお話です。

レポート詳細

■人生を変える出会い

 今回で4回目を数えるワークショップ「愛され必要とされる企業になる瞬間」は、ゲストに岡山県西粟倉村での地域おこしの経験を踏まえ、人づくりから地域経済を再構築する地方創生モデルの横展開を目指すエーゼロ株式会社代表取締役の牧大介氏、ファシリテーターにビジネス・コミュニティデザイナーの但馬武氏を迎え開催された。中小企業がこれから生き残って行くためには愛され、必要とされる企業になる必要があるが、それらの企業は当初から愛されていたわけではなく、過去の経営判断によって、愛される道をたどっているケースが多い。このイベントの趣旨は、その要因を参加者で抽出し、語り合うというもので、2016年8月のキックオフ以来定期的に開催されている。

今回のイベントは初参加の人も多かったため、最初にアイスブレイクの時間が10分ほど設けられた。合図に合わせ全員でコミュニケーションを取り合ううちに、会場内に漂っていた緊張感が次第にほぐれ、会場の空気が和んでいくのがわかった。

 ほどよく会場が打ち解けたところで、今回のゲストである牧氏が登壇した。牧氏が拠点とする岡山県西粟倉村は、兵庫県との県境にある豊かな木々に囲まれた人口1500人ほどの小さな村だ。そんな山奥の村に、ここ7、8年で20社ほどのローカルベンチャーが立ち上がっており、それらの売上げを合わせると約10億円にも上る。ローカルベンチャーとは、地域由来の資源を用いてビジネスを立ち上げることだ。なぜ西粟倉村では、多くのローカルベンチャーが生まれるのか。「もともとモチベーションが高い人がいた」と語る牧氏。「自分はそこに入っていってその人の伝えたいことをわかりやすく伝える役割を果たした。やる気があって、ワクワクしている人のところには面白い人が集まって新しい何かが生まれる、その連鎖の結果だ」という。

 同氏は大学で森林や昆虫の研究をし、民間のシンクタンクに勤めていた。前職で事業会社や自治体からの依頼をこなすうち、牧氏の心の中で「報告書を書いても地域や社会は変わらない」という思いが強くなった。それと同時に「チャレンジする人が出てこないと地域は変わらないし、地域で新しい何かをする人を増やしていこう」と考え、地域関連の仕事を増やした。西粟倉村の案件はその中の1つだったが、担当者の熱心さや西粟倉村初のローカルベンチャーである株式会社木の里工房木薫(もっくん)の國里哲也氏との出会いが、牧氏を西粟倉村に引き込んだ。気づけば、牧氏のスケジュールは西粟倉村に関する仕事で埋め尽くされていたという。

■人から評価されるということ

 牧氏の講演に続き、但馬氏が聞き手となっての対談が行われた。但馬氏からの最初の問いは「なぜウナギの養殖をはじめたのか」。牧氏が講演の中で「エーゼロではウナギの養殖もやっている」と語ったことに参加者が当惑していたため、それを汲んだ質問だったのだろう。牧氏は「林業は収益化できるまで50〜10年かかる。ゆっくり回る資産だけでは地域経済は回らない。短期で収益が得られるプロダクトが必要だった」と語り、うなぎの養殖で林業から出るゴミを再資源化できることも理由として挙げた。「でも、それ以上にウナギが好きだった」と、会場の笑いを誘った。

同氏の「好きだ」という想いと計算の結果、ウナギの養殖というアイデアが生まれた。「確かにエーゼロではワクワクしたことをやる、ワクワクファーストな文化がある」と、但馬氏がエーゼロの企業文化について指摘した。これを受け、牧氏は「ワクワクできて、皆が同意したことでないと全員の力が出せない。エーゼロでは一番ワクワクしている人をリーダーに据え、プロジェクトを進行させている」と語った。規律や序列が明確にある企業ではあり得ないプロジェクト進行の仕方に、参加者は皆驚いていた。

 組織として何かを成し遂げるには経営理念やビジョンといったものが必要になる。しかし、エーゼロにはそれがない。牧氏は「外面を良くしていくとうまくいかない。メンバーの関心が共感や評価に入ってしまって、中から湧いてくる自分たちが大切にしたいことが遠ざけられてしまうので、ビジョンや経営理念はとりあえず後回しにしている」と、共通目的のために1人1人が手段になってしまうことを危惧していた。但馬氏は組織を湖に例え、「綺麗な湖を人は評価するけど、濁っている湖は評価されない。でも濁っている、混沌とした中でこそ考える余地が生まれるし、新しいものが生まれる」と語り、自身の体験も踏まえて理念やビジョンといったものの必要性や意義を参加者に問いかけるように話していたのが印象的だった。

■ワクワクの方程式

 2人の対談の後、参加者同士で感想や疑問をシェアする時間が設けられた。参加者の関心が最も高かったのは牧氏の経営手腕やエーゼロの独自の企業文化についてだ。会場で出た意見を一部抜粋して紹介する。

「どのようにして人を巻き込んでいくのか」
「自身がやりたいことをどのように周りに伝えていくのか」
「ビジョンを作っていないところがすごく面白いが、会社内でのルールはどうなっているのだろう」
「新しい事業はどのように決まるのだろう、今進めている事業はあるのか」
「みんながやりたいことをやったら組織は立ちいかない、社内ではどのようなコミュニケーションをとっているのだろう」

 これらの問いに対し参加者からは様々な意見が出され、「その考えいいね」「それ、聞いてみてよ」といった声が会場の至るところから聞こえた。人の意見の揚げ足をとるような議論ではなく、認め合い励ましあう議論がいたるところで行われていた。それを見た瞬間「ワクワクしている人のところには、面白い人が集まって新しい何かが生まれる」という牧氏の言葉が腑に落ちた。参加者の多くはアクションを起こしたいとワクワクしている、面白い人たちだ。彼らが行動を起こせば、きっと彼らのワクワクは指数関数的に多くの人々に伝播し、人々に愛される企業をもっと生み出す原動力となるのだろう。


                                                    (文:酒巻 徹)