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レポート ベンチャー,大企業

『事業創造TOKYO LEAGUE』開幕−ベンチャーと大企業の”協創”で生み出す新規事業−レポート②

開催情報

2016.1.20 (水)

【レポート】事業創造を生む大企業とベンチャーの協創とは

レポート詳細

【レポート】事業創造を生む大企業とベンチャーの協創とは
『事業創造TOKYO LEAGUE』開幕 1月20日(水)開催

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オープンイノベーションにまつわる種々の課題を解決するために

昨今、大企業とベンチャー企業によるオープンイノベーションの実現や、大企業によるベンチャー企業への投資が盛んとなり、且つ、その必要性は今後ますます高まってくると予想されています。しかしながら、「大企業と協創したくともつながりを持てない」「両者の価値観の違いにより、プロジェクトが円滑に進まない」といった課題があることも事実です。

そうした課題を解決し、そして大企業とベンチャーがより良い協創を行い、新しいモノ・コトを生み出すためには、どんなことが必要なのか。そこへの効果的なアプローチを考えるためのセッション『事業創造TOKYO LEAGUE』が、2016年1月20日にTIP*S/3×3Laboで開催されました。

中小企業への事業資金の融資などを行う日本政策金融公庫、創業支援や販路開拓、経営相談などのサポートを行う中小企業基盤整備機構(中小機構)、そしてエコッツェリア協会の主催によって行われたこのイベント。大企業に所属する人、ベンチャー企業に所属する人などさまざまな肩書を持った80名を超える参加者が集い、新しい何かを生み出す第一歩を踏み出しました。

オープンイノベーションを個人視点で考える

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基調講演を行った岩井利仁氏

「あなたにとってのオープンイノベーションとはなんですか?」

そんな問いかけから基調講演をスタートしたのは、経営パワー株式会社 中小企業診断士 代表取締役社長の岩井利仁氏。松下電器産業(現パナソニック)という大企業で自ら社内ベンチャー制度を創り上げ、ベンチャー企業の創業者となった経歴を持つ岩井氏。現在は事業プロデューサーとして、大企業とベンチャー企業の連携を推進中であり、このイベントのスタートを飾るにふさわしい人物です。

大企業-中小企業間の”オープンイノベーション”は、大企業側の「ベンチャー企業の持つ革新性やスピード力を活かしてイノベーションを創出したい」という思惑と、ベンチャー企業側の「大企業の持つブランド力・信用度・資金・販売力を活かして事業を伸ばしたい」という思惑が交差する地点で生まれます。ですが岩井氏は、「オープンイノベーションは”将来の新しい働き方”、”将来の仲間創り”のきっかけである」と言います。その言葉の背景にあるのは、終身雇用制度の破綻です。

「60歳で大企業を退職するとしても、再就職先はなかなか見つかりません。あったとしても、年収もやりがいも少ない会社ということがほとんど。では充足感を得るためにはどうすればいいか。それは、個人事業主としてや、起業して働くこと」と語る岩井氏。つまり、大企業に勤めている人であっても、将来的にはベンチャー企業の立場になることもあるというのです。

組織から離れたときに役立つものは何か。それは、組織にいるときに培った人脈です。したがって、今現在大企業で働く人も、魅力を感じる人と出会えたなら、そのつながりを持ち続けることが重要になるのです。そうした個人と個人のつながりが、将来的に仕事を得ること、そして大企業との協創を行うチャンスにつながると、岩井氏は説いたのでした。

また岩井氏は、ベンチャー企業の立場から、大企業と協創するために大事なことについても説明します。

その一つは「大企業の本音」を知るということ。ベンチャー企業によくある「我々の技術やサービスは他社にはない画期的なもの」という売り文句は、実は逆効果だと言う岩井氏。それは「大企業側からすると “自分たちより技術力のあるベンチャーは存在しない”という本音」があるから。なぜその技術は他にはないのか、実用化レベルに持っていくことができるのか、ということを説明できないと、大企業の本音と乖離が起こってしまい、敬遠されてしまうのです。

さらに、大企業の事業部門などへの直接的なアプローチや、第三者からの紹介でアプローチする、「直球の攻め」も協創には結びつきづらいと語ります。有効なのは、大企業内のベンチャーファンド部門や、企業内ベンチャー企業にアプローチするという「変化球の攻め」を行うこと。ベンチャーへの理解が深い部門を介することで、間口が広がって行くと、岩井氏は語りました。

ベンチャーと大企業をつなげる港

NTTデータ・角谷恭一氏
NTTデータ・角谷恭一氏

続いて登壇したのは、オープンイノベーションフォーラム「豊洲の港から」を開催している、株式会社NTTデータの角谷恭一氏。現在、オープンイノベーションの第一線を走っている角谷氏は、「豊洲の港から」の取り組みを紹介しました。

この「豊洲の港から」は、ベンチャー企業にとっては事業展開の拡大や大手企業とのアライアンスの機会を得ることができ、大手企業にとっては新たな付加価値の獲得や事業化スピードアップを果たすことができます。そして運営を行うNTTデータにとっては、大企業×ベンチャーのマッチングを果たすことで新しいビジネスの創出を目指すことができるという、Win-Win-Winの関係を構築できるもの。2020年度までに100億規円模のビジネスを創発することを標榜しているビッグプロジェクトです。

月1回行われる定例会には、これまで累計2000名が参加。識者によるパネルディスカッションやプレゼンテーション、意見交換会が行われます。そこでは、ベンチャー企業が有する技術をしっかりと理解する大企業の担当者と交流を持つことができるため、ミスマッチングを起こすことなく、ストレートなつながりを持つことができるのです。実際にこの定例会から事業化を果たした例もあります。NTTデータが2014年に発表したクレジットカードの決済情報や位置情報を活用し、消費者に最適な特典を配信する「CAFIS Presh」というサービスは、スマートフォンサービスやインターネットサービスの開発を手掛けるベンチャー企業・アイリッジとNTTデータが互いの技術を結びつけることで生まれたものです。

さらに「豊洲の港から」では、年2回のビジネスコンテストを行っています。これは、NTTデータが提供するサービスをテーマに、そこにベンチャー企業が持つサービスやソリューション、アイディアを掛け合わせて新しいイノベーションビジネスを創発するというもの。コンテストと聞くと、優秀な企業には賞金が与えられると思われるかもしれませんが、「豊洲の港から」のコンテストの場合は、それ以上の価値を持つものが与えられます。それは、NTTデータの担当者が、優秀企業の提案を、ビジネス化とするために、共にディスカッションを行ったり、サポートチームを提供するなどの支援を行うのです。これまで、コンテスト発で事業化したものは2件。成果を見ても、ベンチャー企業、大手企業にとって大きな意味のあるものと言えるでしょう。「オープンイノベーションを起こすためには、どのような入り口から入るかということも重要ですが、当社の場合は、このコンテストのような窓口を通して、ベンチャー企業とつながっています」と角谷氏。

こうした成功事例を紹介する一方で、角谷氏は、大企業がベンチャー企業と協創するためには、大企業側の担当者も訓練が必要であると言います。「ベンチャーと仕事をしていくためにハードルがあることも事実。大企業も、ベンチャー企業と連携するための土台を築かなければなりません。NTTデータでは、その土台を築くためのワーキングを実施して、社員に訓練をしてもらっています」と角谷氏。そこでは、スピード感を持った検討の仕方や、組織とは離れた観点を持ってディスカッションを行う方法などを学ぶそうです。こうした土台を築くことで初めてベンチャー企業と協創できると話し、角谷氏はプレゼンテーションを締めくくりました。

ベンチャーサイドから見る「ベンチャー×大企業」の難しさとは?

角谷氏は「大企業がベンチャー企業と協創するには準備が必要」と語りました。その一方で気になるのは、ベンチャー側はどのような準備、対応をすべきかということでしょう。そのことについて考えるために、ベンチャー企業の代表者がプレゼンテーションを行いました。

名古屋大学発のヘルスケアベンチャー企業である株式会社ヘルスケアシステムズは、抗体チップにより未病検査を実施するサービスを展開しています。同社の瀧本陽介氏が説いたのは、メディアを活用することの重要性についてでした。

同社のサービスは、一般の人々にとって有用性の高い健康分野のものですが、当初はなかなか検査個体が集まらなかったそうです。その中で瀧本氏は、さまざまなメディアの取材を受けることで企業とサービスの知名度を上げ、現在ではさまざまな企業・団体から注目を集めています。「我々ができるのは研究や検査など。ビジネスとして成立させ、さらに拡大していくためには、メディアもパートナーのひとつとして考えています」と瀧本氏。メディアに注目される広報戦略を組むことが、大企業との協創への近道と言えるでしょう。

ヘルスケアシステムズ・瀧本陽介氏
ヘルスケアシステムズ・瀧本陽介氏

ITの仕組みを使って人の感情をデータ解析し、それを経営改善や職場改善に活かすサービス「wizpra NPS」を展開する株式会社wizpraの今西良光氏は、ベンチャーサイドから感じる、大企業と関わる際に感じる難しさについて紹介しました。

今西氏は、「ビジネス化への本気度」「スピード感に対する意識」「担当者と決裁権者の感覚の違い」「既存事業とのカニバリゼーション」といった難しさがあると言います。中でも強調したのは「成功の定義の違い」という点です。ベンチャーとしては、20〜30億円規模の売り上げを獲得できれば成功ですが、大企業としては、ベンチャーと連携するというハードルを越えてまでやるのであれば、より高いラインを求めたいもの。そのため、Win-Winの関係を創るためには「いかに夢を語り、ビジネスとしてのスケールの大きさを担保できるかが重要」であると、今西氏は語りました。

wizpra・今西良光氏
wizpra・今西良光氏

最後に登壇したのは、新しい出生前診断の研究開発を行うベンチャー企業・株式会社TL Genomicsの久保知大氏。久保氏は、ベンチャー側が持つ、大企業への要望を挙げました。それは、「長期的な付き合い」について。ベンチャーキャピタルからは即時的なマーケットインを期待されることが多いそうです。しかし、市場にインパクトを与えるためには相応の時間が必要であるため、短期的な利益だけではなく、目線を広げ、より大きなニーズに応える必要性を考えてもらいたいと語りました。

TL Genomics・久保知大氏
TL Genomics・久保知大氏

『事業創造TOKYO LEAGUE』発の新規ビジネスへの期待

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密度の濃い2時間の講演・プレゼンテーションを終えた後は、「事業創造を生むために、ベンチャーにできること、大企業にできること」というテーマでワークショップが行われました。”エネルギー源”として配られたアルコールも入り、各テーブルでは和気あいあい且つ活発な議論が繰り広げられ、「ヒト・モノ・カネすべてがない状態のベンチャーもある。投資をしてもらうだけではないつながりを持つ必要があるのでは」「大企業の不使用特許をベンチャーに提供する」といったアイディアが出されました。

最後に、基調講演を行った岩井氏による総括が行われました。岩井氏は「私も社内ベンチャーを立ち上げた頃はお金がなかったので、いかに費用を掛けずに販促を行うかということを考えていました。そこで思ったのは”講師をすること”と”メディアに出ること”でした。積極的にそれらを実行すれば、大企業の人は自ずと近づいて来てくれるでしょう」と、セッションを締めくくりました。

大企業×ベンチャーの協創にはまだまだ課題があることは事実です。しかし、その壁を乗り越えることができれば、これまでにない事業が創発される可能性は大いにあります。そのきっかけを創る場である『事業創造TOKYO LEAGUE』は、今後も2回目、3回目の開催を行い、長期的な観点で行っていきます。ここから新しい関係、新しいビジネスが本当に生まれるのか、期待して見守りたいと思います。(文:久我 智也)

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協力:エコッツェリア協会