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【レポート】福祉×商品開発で生まれる新しい共生社会とは?

2017.03.21(火)

19:00-21:30

レポート詳細

~障害者就労支援施設が地域の課題解決に乗り出すとき~

■福祉と地域をつなぐ、仕組みを作る

 今回のイベントは社会福祉法人いぶき福祉会専務理事の北川雄史氏と、株式会社グラディエ代表取締役の磯村歩氏をゲストに迎え、「福祉×商品開発で生まれる共生社会とは?」をテーマに開催された。司会進行を務めたのは中小機構人材支援アドバイザーの原亮氏だ。原氏は冒頭「新しく出会う人との対話・つながりから新しい何かが生まれる。」と、今回のイベントでの新たな出会いに対する期待感を語った。会場では福祉や地域の活性化に興味がある人など、様々な思いを持つ参加者が集まり、北川氏と磯村氏の話に期待を膨らませていた。

 まず登壇したのは磯村氏だ。同氏は、自身が手がける地域デザインブランド「futacolab」の体験をもとに、福祉作業所が抱える問題と、それに対してどのように対応したかについて語った。磯村氏曰く、現在日本の福祉作業所が抱える問題は以下の2点だ。ひとつは、健常者と障がい者の間にある心のバリア、もうひとつは、工賃がかなり低い水準にあることだ。

 磯村氏はこの2つの問題に対して、「地産地消のギフトで、健常者と障がい者の接点を作る」ことで対応した。従来の「障がい者でも作れる製品を、とりあえず作ってどこかに販売する」というアプローチから「地域に根ざした商品を、福祉作業所の特徴を生かして生産、販売する」というアプローチに変更したのである。磯村氏は、「地域のイベントは地域のものを使いたいというニーズがあり、さらに少量生産のためオーダーメイドに対応でき、確実に利益が出る」と述べる。同氏は現在全国の福祉作業所に同じ事業モデルを展開し、地域で健常者と障がい者の理解を進めようと働きかけている。


Cap:自社の事業モデルについて語る磯村歩氏 


 次に登壇した北川氏はなぜ福祉の道に進んだか、どのようにして障がい者の居場所を作ってきたかについて、自身の半生を振り返りながら語った。北川氏が福祉の道に進んだのは、同じく福祉の仕事をしていた父親の影響だった。しぶしぶ飛び込んだ福祉の世界で、北川氏は多くの生死に向き合って来たという。そのなかで、同氏の中に芽生えたのは「亡くなることが悔しい、生きづらい状況にある人の未来をともに作りたい」という気持ちだった。その思いでたどり着いたのが、モノづくりだった。障がい者に、モノづくりを通して人と関わりながら仕事をすることの喜びを知ってもらうために、同氏はいぶき福祉会で様々な商品を考案し商品化してきた。講演の最中、北川氏が何度も口にしていた言葉が「かけがえのない存在」である。「あいつがいなきゃ」と「俺がいなきゃ」という2つのベクトルを合わせることが障がい者だけでなく、人間の生きるモチベーションになる。そのために北川氏は「ものをちぎるのが好きな人には、この作業を任せよう」といった具合に分業体制を敷き、障がいを持った人ならではの個性を活かすモノづくりを進めている。北川氏といぶき福祉会から伸びるベクトルは、磯村氏と同じく地域につながっている。彼らと福祉作業所、そして地域の3つから伸びるベクトルが、それぞれ相互につながることで健常者と障がい者の相互理解が促進されているのがわかった。


Cap:参加者に問いかけるようにプレゼンを進める北川雄史氏


■人と人との相互作用、新たな何かが生まれる瞬間

 北川氏の講演が終わった後、参加者同士で感想をシェアする時間が設けられた。皆、地域と福祉作業所を結びつけ、なおかつ汎用可能な事業モデルを作り上げた、両ゲストの手腕に興味を抱いていたようだ。都内企業で働くある男性は、「障がいを持つ人たちは、特定の分野に特化していることが多い。そういうところを認めて、皆の長所をいかした分業体制を作ったところが巧みだ」と述べる。「確かに、障がい者だからできないじゃなくて、障がい者だからこそできる、と発想を転換させたことが功を奏したんだろう」と、先の意見に続いて口を開いたのはフェアトレードに携わる男性だ。またある女性は、「福祉施設とビジネスは関係ないと思っていたけれど、ゲストの2人はある意味起業家精神を福祉施設に持ち込んでいた。これからの参考にしたい」と、今後の自身の活動に対してヒントを得たようだ。

 ひとしきり感想が出尽すと、次は「5本の手」から自身の役割を考え、グループで共有するセッションに移った。「5本の手」とは、北川氏が提唱する、作り手、伝え手、売り手、買い手、繋ぎ手で構成される、人の5つの役割のことだ。先ほど紹介したフェアトレードに携わる男性は、「世界と日本の繋ぎ手」になると意気込んでいた。すると、その考えに共感した参加者たちから、「先ほどのモデルに当てはめるなら、良質な顧客が必要。買い手の開拓が急務になるだろう」「動きやすくするためにNPO法人にしたほうがいいのでは」「大使館に話を持ちかけるといい」など、男性に対して様々なアドバイスが投げかけられた。様々な助言を受けた男性は自身のアイデアに賛同し、助言してくれる人の存在に驚きつつ、今後の活動に対して覚悟を固めていたようだ。まさに、冒頭に司会進行役の原氏が述べていた「新しく出会う人との対話・つながりから新しい何かが生まれる」瞬間だった。

 人には皆役割があり、役割を人に与える役割を持った人もいる。磯村氏と北川氏はまさにその役割を果たし、皆が「happy – happy relationship」を築くことができる仕組みを作ろうとしていた。参加者も自身の役割について考え、何をしてきたか、今後どんなアクションを起こしていくべきか考える有意義な時間になったようだ。

(文:酒巻 徹)

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