【レポート】【オンライン開催】地域や国を超えて、みんなで振り返る「特別な一年のまとめ」
年の瀬迫る2020年の12月、TIP*Sでは「新型コロナウイルス感染症の世界的流行」という歴史的にも大きなインパクトを残した1年について、参加者のみなさんといっしょに考えてみました。
ファシリテーターを務めたのは“マサさん”の通称でおなじみ、中小機構人材支援アドバイザーの加藤正義さん。富士通のデザイン部門に所属し、コンセプトデザインやアイデア創発など、組織や個人の潜在的な強みや発想を引き出すのを得意としています。
マサさんからの問い0:今年一番の大きな買い物は(自分に向けて)?
マサさんのオンラインワークショップは、オンラインツールを駆使するのが特徴です。チェックインは、Googleスプレッドシートにニックネームや参加動機などを入力して自己紹介。1枚のシートに、全員の回答が集まるしかけです。そして「今年一番の大きな買い物は?」も、自己紹介シートに設けられた項目のひとつです。
2020年は私たちのライフスタイルが、大きく変わった1年でした。
特に“外に出る”ことを、世界中の人々が一斉に制限されたことは今までなかったことでしょう。日本でもホワイトカラーの人たちを中心にオフィスへの出社制限がかかり、テレワークが一気に普及したのは象徴的な出来事です。それに伴い、定期券代を支給する通勤手当を廃止した企業が続出しました。また出張や旅行など、これまで飛行機や特急を使って現地に向かっていたのがたちまち一変。ZOOMやTEAMSを使った会議や打ち合わせが珍しいものではなくなり、“オンライン飲み会”も一時的にブームとなりました。
これらの現象は、私たちにコミュニケーション手段の新たな選択肢をもたらすと同時に、距離や時間に対する捉え方を変えるものとなりました。そして改めてデジタルテクノロジーが、人々の暮らしや社会に強く密接していることを私たちに示したのです。
マサさん「パソコンという人が、かなり多いですね!」
デジタルライフへの移行を反映するかのように、パソコンやスマホといったデバイスを回答する人が続出。プロジェクターやVR用ヘッドセットの「オキュラスクエスト」を挙げた人もいました。一方で絵画用のキャンバスや電動自転車、カーペットなど、趣味や暮らしの充実につながるアイテムを入力する人も。大学院への進学など、学びに投資したという人もいる結果となりました。
スプレッドシートが埋まったところで、4名ほどのグループに分かれてブレイクアウトセッションに。シートに沿ってお互いを紹介し合い、ウォーミングアップは完了です。
マサさんからの問い1:この1年、身のまわりで増えたもの、減ったものは?
新型コロナによって、否が応にも新しい生活様式への適応を迫られた私たち。それにより新たに手に入れたものもあれば、手放したものもあるはずです。
最初のワークでは、2つのゾーンに区切られたGoogleスプレッドシートに、この1年で増えたものと減ったものを入力していきました。スタートの合図より前に、参加者のみなさんによって13×8マスのセルがどんどん埋められていきます。
移動、ストレス、散歩、睡眠時間、仕事、収入、それから体重に出会いの数、自由時間――。セルに記されたこれらは、この1年で増えたもの、それとも減ったものでしょうか?
正解は、なんと両方! ある人には増えたものが、別の人には減ったものとなったのです。
働き方や暮らしの変化は、自身とあらゆるものとの関係を考えるきっかけにもなりました。本当に住みたいところに居を構えること、家族との距離が近い場所で働くこと、会社以外にも活躍の場を広げること。少し前には特別だったことが、ぐっと手を伸ばせば届くかもしれない程度の距離感に近づいたのは、“コロナの功名”といえるかもしれません。しかしそれは同時に、人生そのものを組織や誰かに委ねるのではなく、自律の必要性を私たちにつきつけます。
この日も、自分らしいキャリアに向けて動き始めた人たちがいました。シートに埋められたキーワードをもとに、グループに分かれてディスカッションした後のことです。チャット欄には「○○さんのお話が面白かった!」という紹介が、次々と書き込まれました。
新型コロナの影響で失業したものの、夏場に地方のホテルで働いたことで自分が本当にやりたかったことに気づき、地域おこしの仕事を始めるという人、こういう時代だからこそ自分から動きたいと、起業を決めたという人、さらには2019年にマダガスカルで起業準備をしていた縁から、来月からギニアに向かうという人も!
そうした人たちに共通するのは、いきいきとした語り口でした。自分で描いた思いを形にしていく嬉しさが、言葉に滲み出ていたのです。不確実な時代を前にわくわくした心持ちで臨む姿勢は、集まった人たちに刺激を与えていました。
ここでマサさんが、シートの内容に基づき作成されたテキストマイニングを紹介。納得のキーワードが大きく示されました。
マサさんからの問い2:あなたの周りで特に変化の大きかった要素は?
次のワークでもデジタルツールが登場です。ここで利用したのは、ライフコーチやビジネスコーチを手がけるnoomiiが提供する、「Wheel of Life」(※)というもの。健康やキャリア、家族など人生に欠かせない8つの要素を10段階で評価すると、その場で結果がチャート化されるフリーツールです。
マサさん「この1年間での変化の度合いを評価し、それぞれの2020年の状態を可視化してみましょう」
さらに今回は8つの要素から変化の大きかった3つを取り上げ、グループに分かれて感じたこと、考えたことなどを話し合いました。
2020年を俯瞰してみると、改めて特別な1年だったことがわかります。
デジタルシフトやライフキャリアの再構築に、家族や会社、地域とのつながり、またグローバルと分断、地球環境やサスティナビリティなど、これらに伴う価値観の多様化や変化は、数年前から課題とされていたものでした。ただしこれらは過去との連続性を伴っていて、それぞれが互いに影響し合いながらゆるやかに、私たちに問いかけていたものです。
しかしそうした時間の流れは、感染症には通用しません。私たちは突然に、これまでと異なるフェーズに投げ込まれた1年でした。
その影響を真っ正面に受けたのは、大学生でした。ワークショップに参加した学生のひとりは、「この1年、ありとあらゆることが変わった」と語りました。
寮生活をしながら東京の大学に通っていたものの、春に寮が閉鎖となり実家に戻ることに。3年生になって、1度も通学することなくオンラインで授業を受けているといいます。
参加者「大学の友人には会えなくなってしまったけど、趣味の時間は確実に増えました。翌年に控える就職活動も、オンラインでの選考が中心となりそうです」
けれども私たちの新しい暮らしは、必ずしも人との出会いを制約するものでもないかもしれません。オンライン主体のコミュニケーションになったことで、友達の数が爆発的に増えたという人もいました。
参加者「趣味の占いでオンライン鑑定を始めて、この1年間でFacebookの友達が100人以上増えました。ここまでつながりが広がったのは、オンラインだからだと思います」
新型コロナによる影響ばかりが注目されがちですが、ライフステージが変わることによって変化が生じた人もいます。
参加者「定年を迎え、仕事が減ったことで収入も減ってしまった。けれども時間が増えたことで、毎日英語を5~6時間勉強しています。自分でもこんなに集中できるのかと驚いているところです」
ポジティブな声からは、変えられない状況を嘆くより自分でコントロールできる領域を変えていくことで、未来は拓けることを予期させました。
2020年とこれからを、どうつなげていきますか?
全編オンラインでのセッションは、あっという間に2時間が経過。まとめの時間もGoogle Jamboardというオンラインツールを利用しました。デジタル上のホワイトボードのようなもので、テキストや図形を入力するほか、画像の挿入や付箋の貼り付けも行えます。マサさんのワークショップでは、おなじみのガジェットです。
マサさん「今日のワークを踏まえつつ、ことし1年の学びをひと言で示しましょう」
ひとり1枚ずつ付箋を使い、メッセージを貼りつけていきます。Jamboardには個性的ながら、共感を誘う言葉が並びました。そしてそれぞれに思案や内省の跡が見られ、この1年が気づきに富むものだったことをしみじみと感じさせます。何より印象的だったのは、新しい時代の到来に期待を寄せるものがほとんどだったことです。
新型コロナウイルスが多くの人の命を奪い、かつ企業活動や生活の混乱を招いたのは、紛れもない事実です。しかしながら、居心地のよさを理由に時代に合わない環境やシステムから、変わろうにも変われずにいた私たちの意識に揺さぶりをかけたのも、またこのウイルスでした。
そして2021年。もしワクチンなどにより感染症の広まりが収まれば、日常は平穏を取り戻すでしょう。けれどもその姿は、2020年より以前と同じものにはならないはず。私たちは使い古しの社会からの脱却に向け、確実に一歩を踏み出したからです。
あなたは2020年という特殊な1年を過ごした経験を、これからの判断や行動にどう生かしていきますか?
〈イベントメモ〉
タイトル:地域や国を超えて、みんなで振り返る「特別な一年のまとめ」
開催日時:2020.12.11(金) 19:00-21:00
ファシリテーター:加藤 正義さん(中小機構人材支援アドバイザー)
※ Wheel Of Lifeを試してみたい方はこちら→https://wheeloflife.noomii.com/