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【開催レポート】 情熱!トークイベント『つながりとアイデアで自分を活かし切れ!』

2016.05.17(火)

レポート詳細

開催レポート     2016年5月17日(火)
情熱!トークイベント『つながりとアイデアで自分を活かし切れ!』
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5月17日に新生TIP*Sで開催された「情熱!トークイベント『つながりとアイデアで自分を活かし切れ!』」は、非常に多彩で広角的なイベントになりました。イベントのキーワード「つながり」「アイデア」に合わせ、プロフェッショナル・コネクターの勝屋久氏、創造工学専門家の石井力重氏のお2人をゲストに迎えて開催されました。

冒頭、TIP*Sを担当する中小機構の岡田恵実氏は、「これまでのTIP*Sは“ワークショップ”“講座”という“点”を打ってきた。これからは、この点と点をつなぎ“線”に、そして“面”にしていきたい」と話しています。「活動の軸は中小企業」ですが、多様性に富んだプレイヤーを巻き込み、中小企業を支援する体制を作ろうとしているということ。「つながり」と「アイデア」は、そんな新しい切り口のひとつです。

 

■ネガティブ感覚が自己の枠を外す

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勝屋久(かつやひさし)。Katchaman。IBMに25年勤務し、IBM Venture Capital Group パートナー日本代表などを務める。2010年独立、プロフェッショナル・コネクターとして活動を始める。2013年からアーティストとしても活動を開始。色弱を活かした独特の色彩感覚の絵画は、海外からも評価が高い。

最初のトークにはプロフェッショナル・コネクターの勝屋氏が登壇。氏は、大手IT企業を辞し独立、アーティスト活動、企業支援活動、教育事業などに取り組んでいますが、自らのミッション・ステートメントを「Katchaman(勝屋氏のこと)を完成させること」であるとし、そのために「人がつながることのお手伝いをする」ことを活動指針としているそうです。
「つながりというのは人脈じゃありません。私とあなた、私と地球、私と水。ありとあらゆるものとのつながりで、そのつながりを通して、私たちは自分を知り、才能を開花させ、輝くことができるんです」
と勝屋氏。先取りして換言すれば、あらゆるものとの関係性(=つながり)こそが、本当の意味での「自分」を見出す契機になるということです。

勝屋氏自身が「本当の自分」にたどり着くまでには、生き生きと生きる人たちとの出会い、リストラ、愛する女性との出会いといったさまざまな経験が必要でしたが、「日常で意識的に行うことで自分を変えることができる」と会場に集まった参加者にそのポイントを解説しました。

そのひとつめが「考えるよりも感じる」ということ。人間は、縦軸に「自分」を持ち、横軸に「他人、社会」を持っています。社会の中で生きていると、人はどうしても横軸に合わせるようになってしまうのですが、しかし、本当に大切なのは縦軸にある自分であり「感覚の世界」であると勝屋氏は話します。「横軸に合わせる、というのは本当は技術の問題でしかないんですね。本当に大切なのは縦にある自分で、そこを基に社会に合わせていけばいい」。

例として成功している起業家たちを挙げ、「彼らは自分の軸をちゃんと持っている。社会のトレンドに合わせて起業するような人は絶対にうまくいかない」。起業に限らず、人として生きるうえで、「なんでもかんでも他人軸に左右されてちゃいけない」と話し、「Katchamanむかつく!、面白い!でもなんでもいい。とにかくアホになって“感じて”ください!」と会場に呼びかけました。

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もうひとつのポイントが「相手を通して自分の心とつながる」こと。特に「なんとなく気分が良くない、違和感があるというような、ネガティブな感覚を持つ相手」とのつながりが大事なのだそう。それは「ネガティブな感情を入り口にしてこそ、自分を規定する枠を見つけることができるから」です。

勝屋氏自身、ネガティブな感情を持つ相手=「嫌いな人」は大勢いたそうです。そうした嫌いな人たちに出会う中で、ふとしたことで「面白い人もいる」ことを知り、「自分の枠が外れた」そう。これは人に限らず「モノ」でも同じこと。勝屋氏は「日本の地方」や「ブログ」が嫌いでしたが、ふとしたことから好きになったと話します。

人は思考の枠に囚われている間は、自分が枠に囚われていることに気づきません。ネガティブな感情と向き合うということは、その思考の枠を外す格好の機会です。それを勝屋氏は「プラトンの洞窟」を挙げて「私たちは思い込み、観念の世界で生きている」と解説し、尊敬する岡本太郎の「壁は自分だ!」という言葉を紹介しました。

そして、なぜ自分の枠を外さなければならないのか、それは「チャンスとアイデアにつながる蓋をどんどん開けること」に他ならないからだと勝屋氏は話します。「意味のない枠を外すたびに、自分の世界が広がっていく。そして、ステキなアイデア、ステキなご縁につながっていく」。そして最後に「皆さんの枠って何ですか? ネガティブな感情から入っていくと自分が変わっていくと思います」と会場に投げかけて締めくくりました。

勝屋さんのお話は、こちらにも掲載されています(「勝屋久の日々是々」)。

 

■アイデア創出の科学

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石井力重(いしいりきえ)。アイデアプラント代表。商社勤務、独立行政法人フェロー、ベンチャー企業勤務経て、2009年から現職。アイデア創出支援、クリエイティブワークのツール開発などを行う。いわばアイデア創出のプロフェッショナル。

続いての石井氏のトークは、個人の資質によるもので、感覚的であるかのように見える「アイデアを出す」という行為が、本当は科学的なものであり、実は人と人のつながりが大切であるという、「アイデアとつながりが近い」ものであるという内容でした。

石井氏は創造工学を研究し、現在は「クリエイティブワークやブレストの道具」を開発する「ツール作家」としても活躍。企業や大学などでブレストのイベントを開催することもあります。そうした活動の中で気付いたのが、アイデア出しにおける集合知、多様性と向き合う場の重要性でした。

石井氏は、それらをブレストの4つのルールと照合させて解説します。4つのルールとはすなわち、(1)判断を先延ばしにする (2)大胆なアイデアを歓迎する (3)量を求める (4)既出のアイデアを広げるの4つです。このひとつひとつに他人の存在=つながりが重要だと石井氏は指摘します。

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例えば(3)量を求める においては、「アイデアの手前には、アイデアメーションと呼ばれる、無数のゴミがある。それを出し尽くした後にこそ、本当に良いアイデアが生まれる率が高」く、その「出し尽くす」行為に、他人とのコミュニケーションが大きな役割を果たします。「普通、人間が1万個の知識を持っていたとしても、白紙に書きだそうとすると300個くらいで止まる。個人による創造的なコールにはリミットがある」が、他人との会話が創造的コールを誘発していくのです。

また、(1)判断を先延ばしにする は、「閃きと批判を時間的にずらす」という意味があると石井氏。閃きとはいわばアクセルで、批判とはブレーキ。それを両方踏んでしまえば「車は前に進まない」。アクセルを踏む=クリエイティブな行為と、ブレーキを踏む=クリティカルな思考は、別にしなければアイデア出しは進まないということ。そこで必要なのが、他人とのコミュニケーションにおける「Praise first」(褒めるのが先)という考え方です。人の意見を否定するのではなく、肯定から入ることで、アイデアワークは加速していくと石井氏は指摘します。

こうしたブレストにおける他人との重要性を石井氏は「卒啄同時」(そったくどうじ。「卒」は口偏に卒)と解説しています。本来は仏教の用語で、鳥の孵化においてヒナが内側から殻をやぶらんとするときに、母鳥が同時に外から殻を叩き助ける様から、悟りを得る悟達の瞬間に師が弟子を後押しすることの必要性を説いている言葉ですが、「ワイルドアイデアが前意識からピョコッと孵化する瞬間に、外からうまく光を当てることができれば、ブレストはうまくいく」。 卒啄同時という言葉から振り返ると、ブレストルールの(2)大胆なアイデア (4)既出のアイデアを広げるにおいても、他人が存在することは極めて重要であることがよく分かります。「既出のアイデアを広げるとは、他人のアイデアの面白いところに便乗していくということ。大胆なアイデアをうまく使って、接ぎ木のように便乗して広げていくとブレストはすごく捗る」のだそうです。

最後に石井氏は、「ブレストには、共同作業者の存在だけでなく、愛や友情、利他的な感情などの人に対する心理的要因も大事。他人の存在は、創造に向けたエネルギーが湧くための大きな要因だ」と改めてアイデア創造とつながりの関係を強調しました。

石井さんのお話は、こちらにも掲載されています(「石井力重の活動報告」)。

■つながりとアイデアは通底する

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トークを踏まえ、原亮氏(中小機構・人材支援アドバイザー)のファシリテーションによるパネルディスカッションが行われました。両氏のトークを受けて、「つながりとアイデア、まったく違うように見えて、実は同じところにたどり着いているのが面白い」と原氏。「アイデア」と「つながり」をキーワードに、会場も交えた議論が活発に交わされました。

パネルディスカッションの後は、ワークシートを使いながら、「自分の得意技」「自分がやってみたい活動・プロジェクト」を元に他人とつながる「つながりストーミング」を実施しました。これはいわば簡易ブレスト、アイデアワークともいうようなもので、2人1組で、お互いのリソースと活動アイデアをぶつけあい、アイデアの誘発や、掛け合わせることで何ができるのかを引き出そうとするものです。この日は4セットを実施、1人必ず4人と知り合いになり、何かを考える・行うきっかけ、手がかりを4つ手に入れました。会場に溢れかえるほど広がって、熱心に会話をする参加者たち。1組あたり10分程度の会話でしたが、その短さが逆に会話の密度を上げ、濃密な時間になりました。それぞれのワークでは、会話を通して得られた「○○さんと○○したい!」というアイデアをシートに書き出します。

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その成果を発表したのが「ぐるぐるシェアタイム」です。最初に指名された人が、アイデアをひとつ発表します。例えばAさんが「Bさんと、子どもが遊ぶ場づくりをしたい」と発表すると、次はBさんが「Cさんと伝統工芸を活用したプロダクト開発をしたい」。次はCさんが「Dさんとマイクロ本屋さんを開きたい」と、ぐるぐるとつながっていくシェアタイムです。会場全体がつながってひとつになっていく熱気が生まれる、ユニークな発表手法で、創造工学の研究者である石井氏も「これは面白い」と太鼓判を押すほどでした。

 

■広がるアクションへ

終了後、ファシリテーターを務めた原氏は「リニューアルし、さらにアクションと生み出す場へと生まれ変わったTIP*Sが、どんな場所であるのかを理解し、体験してもらうイベントにしたかった」と話しています。また、今後原氏自身も、TIP*Sで「セレンディピティから新しいアクションを生み出すお手伝いをしていきたい」そう。セレンディピティとは、偶然の出会いから新しい価値を発見することを指し、ソーシャルアクションの重要な契機のひとつとされています。また、セレンディピティには「偶然の出会いを見逃さない洞察力と創造力」も含まれるとされていますが、TIP*Sが、そんな偶然との出会いの場であり、同時に洞察力と創造力を磨く場であることは言うまでもありません。

参加者たちの多くが、この日のイベントを体験して「次に何をしてくれるのだろうか」という期待を抱いているようでした。中小企業支援という軸を持ちつつも、広げた裾野の中から、どんなアクションを構築していくのでしょうか。新生TIP*Sが、どんな姿に成長していくか、読者のみなさんにおいては、ぜひとも“プレイヤー”として、活動しながら見守ってほしいと思います。(レポート:土屋 季之)

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