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【レポート】歴史あるものづくりのまち~富山県高岡市の今と未来~

2017.02.14(火)

19:00-21:00

レポート詳細

■ものづくりの街「高岡」

 今回のイベントは、富山県高岡市並びに株式会社能作の協力を得て『富山県高岡市の今と未来』をテーマに開催された。参加者の多くは銀行員や大学院生など、バックグラウンドは違えど、高岡市にゆかりがあり、地域社会や地場企業に貢献したいと考えている人ばかりだ。イベントが始まる前から、参加者たちは既にそれぞれの故郷や自身の活動について熱く語り合っていた。
 「高岡はものづくりの街だ、ものづくりは高岡の誇りだ」と高岡出身の参加者が語っていたが、「ものづくりの街」としての高岡市の歴史は長い。1609年、加賀藩主であった前田利長が築いた高岡城の城下町として始まり、利長が産業振興の一環で高岡に鋳物師(いもじ)を招聘したことからその名を知られるようになった。長い歴史の中で生まれた高岡漆器や高岡銅器は全国的にも有名である。

■能作流「攻める伝統」

 今回のイベントのゲストとして、高岡市の老舗鋳物メーカー、株式会社能作の能作克治社長が登壇した。地域に誇れる「ものづくり」を目指し、伝統的な鋳物技術を使いながら、斬新な発想で作り出されるテーブルウェアやインテリア雑貨などの作品は、伝統工芸品の枠を超えて、その優れたデザイン性が世界的に高い評価を得ている。
 今回の講演では、就任以来売上高を伸ばし続けてきた能作社長が「攻める伝統」について語った。能作社長は、「伝統」のなかにも良いものとそうでないものがあると指摘する。後者は、従来あるものを引き継ぐだけで、新しいものを取り入れることを拒む慣習のようなものだ。能作社長は実際に、その伝統の壁に突き当たった。高岡市の鋳物業者は、地元卸業者との強いつながりがあり、自分たちで直接お客様の声を聞くことができなかったのである。能作社長は社長就任後、市場ニーズにあった商品を作るために、直営店を設け、消費者の声を商品開発に活かす体制を作った。能作社長の経営は、高度な技術や能作らしさなどの「伝統」は崩さずに、売り方を変えることでマーケットに攻める、まさに「攻める伝統」を体現している。

今や能作は海外マーケットで日本を代表するブランドになりつつあるが、能作社長は海外展開が進んでも、地元である高岡が常に原点にあり、大事にしていることを強調していた。そこには、地域あっての企業であり、「地域社会には労を惜まず貢献する」という能作の企業ポリシーが根底にある。

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Cap:伝統を後世につなぐ施策について語る能作社長


■外に出たからこそわかる、高岡の「良さ」

 今回のイベントのゲストスピーカーとして、能作社長に続き、雑誌『ディスカバージャパン』ディレクターの林さんとライターの上野さんが「外に出たからこそわかる、高岡市の良さ」について語った。
 「高岡はなんで若手があんなに元気なんだ」と林さんは語る。仕事で1年の2/3は地方を巡る彼曰く、これほど若者が仕事に誇りを持ち、活気付いている街は他にほとんど存在しないという。林さんは高岡に住む若者が前向きに仕事に打ち込める理由について、プレーヤーが多く、ものづくりが常に身近にある中で育ったからだと考えている。
 上野さんは、高岡では「おもしろい人に簡単に会える」と語る。都会では、それなりの経験や知見のあるユニークな人に会いたいと思うとアポイントを取ったり、わざわざ出向いたりしなければなければいけないが、高岡ではちょっとした居酒屋にいけばそういった人に出会える。その場で仕事を頼むこともできる。林さん曰く、アナログ感覚で、距離感が近い人付き合いができるのは高岡市の魅力のひとつである。
 能作社長の語るものづくりと高岡市への愛、そして林さんと上野さんが語る等身大な高岡市の魅力に参加者は大きく共感したようだ。


■溢れ出る意見、出会いの場

 能作社長や他のプレゼンターの方たちが登壇された後、参加者同士でのトークセッションが行われた。題目は2つあり、1つ目に「話を聞いて魅力に思ったこと」、2つ目に「話を聞いて、自分がどのように高岡に関わりたいと思ったか」である。皆前半のプレゼンから大きな刺激を受けていたことは間違いなく、早く自分の意見が言いたいといった面持ちだった。前述の2つの題目に対する参加者の意見を、一部抜粋してご紹介しよう。

「今までのやり方を変えるということは、従来付き合いがあった問屋を含め大きな反発を食らったはず。経営者にはやはりタフネスが必要だ」(大学院生)
「デザイナーの使い方がうまい。具体的にはポテンシャルを引き出すためのインセンティブ設計が練りこまれていると感じた」(デザインマネジャー)
「モノがなくなる時代でも伝統は残る。自分の仕事をこれからも続けたい」(伝統工芸関係)

 最後に開かれた参加者全員での交流会では、トークセッションで話し足りなかった分を補うかのように、多くの人がそれぞれの熱い想いを語り合っていた。参加していたNPO職員は、「中小企業の経営者が持つ情熱が好きだ、ここに来ると熱い人たちにあてられて、これからも中小企業支援に力を尽くしたいという気持ちを再確認できる」と仕事への意欲を新たにしていた。また、他の参加者は「自分は高岡の出身ではないが、将来は地域に貢献したいと思っている。今回のイベントで知った高岡の魅力を携えて、今度久しぶりに高岡に行ってみたい」と高岡の街と人の魅力に引き付けられたようだ。3時間という短い時間ではあったが、参加者はまるで以前からの友人のように屈託なく本音を語り合い、個々の抱える課題や今後の夢を語りあっていた。高岡人が誇る「距離感の近い」交流は、参加者全員に密度の濃い時間をもたらしたようだ。

Cap:熱い気持ちを語り合う参加者の方々

(文:酒巻 徹)