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【レポート】『訪日外国人に忘れられない体験をプレゼントする社会を作る』

2017.07.13(木)

19:00-21:00

レポート詳細

人気なのに不満?
 訪日外国人旅行客が過去最高の2,400万人を記録したのは昨年のことだ。政府も観光立国を成長戦略の柱に掲げており、東京オリンピックが控える2020年までに訪日外国人を4,000万人に引き上げる目標を立てている。日本を訪れる外国人が増えていることは、多くの人が肌感覚で感じているのではないだろうか。特に東京、京都、大阪のような「ゴールデンルート」の要所に位置する都市では、バックパックやスーツケースを持った外国人旅行客を見かけない日はないだろう。
 傍目から見れば、訪日外国人は年々増加しているし、日本の観光は人気なのだろうと思える。しかし、実際に日本を訪れた観光客の声は芳しくない。2016年に観光庁が行った調査では、「大変満足、満足」と回答しなかった訪日外国人の数は6.8%に上った。今回のゲストである宮下晃樹氏は、訪日外国人から高い評価が得られない日本の直面する2つの課題を指摘した。1つ目に、日本人は英語が苦手であるということだ。英語で日本の伝統を伝えられる日本人は少なく、多くの訪日外国人にとって伝統文化を体験・理解できる場は限られている。2つ目の問題は、日本の伝統文化をきちんと伝えきれていないということだ。日本に限らず、トラベルガイドなどで紹介されている観光地は、観光のために用意された舞台のようなものだ。もちろん、魅力があるからこそ観光地となりえたのだろうが、そこを訪れただけでその国の魅力を理解することは難しいだろう。そもそも現地の人は行かないような観光地も数多く存在する。理解など度外視で、とにかく雰囲気を楽しめればよいという人もいるだろう。しかしそれではあまりにも味気ないと感じるのは筆者だけではないはずだ。宮下氏は「ニューヨークに留学した当初、疎外感を感じていた。お客様という扱いが常にあり、現地の人々になかなか受け入れられなかった。そんなとき、たまたまストリートバスケに誘われて、そこで友達ができて、いろんな場所に連れて行ってくれた。観光マップに載っていないような場所を訪れて、ようやく自分が受け入れられたように感じた。それが今の事業を始めようと思った原体験になっている」と語る。せっかく遠路はるばる高いお金をかけてきたのだから、現地のことをよく知りたい、もっと言えば第二の故郷にしたいというようなニーズは少なからず存在するだろう。

 

Cap:日本観光の問題点について語る宮下晃樹氏

 ■インバウンドのトータルサポート
 宮下氏が代表理事を務めるNPO法人、SAMURAI MEETUPSでは先に挙げた2つの課題を解決するためにプロデュース事業、ツアー事業、ブース事業、メディア事業、プロダクト事業という5つの事業を展開している。「訪日外国人に忘れられない体験をプレゼントする社会を作る」をコンセプトに、①地域に海外の人を誘致すること②観光のインフラを整備することを上記5つの事業で実践している。
 様々な事業を展開する同法人のメインとなるビジネスは「SAMURAI MEETUPS TOUR」と名付けられた観光ツアーだ。SAMURAI MEETUPSのSAMURAIとは禅師や寿司職人などの「日本の文化に精通した人」のことだ。同法人では、日本を訪れた外国人旅行客をSAMURAIのもとへ連れていき、日本人と共に学ぶ中で本当の日本を知ってもらうという観光ツアーを提供している。通常の観光ツアーと異なる点は「現地人とのコミュニケーション」が有るという点だろう。ツアーの予定通りに観光名所を巡り、土産屋で買い物をして帰るという旅行は、それはそれで楽しいし、現地の言葉を話せなくても安心できる。しかし、外様からは抜け出せない。現地の友人ができるわけでもないし、現地のことを故郷のように思うことはできないだろう。やはり現地のことを理解するためには、現地の人間とのコミュニケーションが必要だ。
 2017年2月からは、成田空港及び成田市と提携し、成田空港利用者の成田市への誘致を図るため、ツアーコンテンツの拡充や、空港内スペースにおける成田市の魅力を伝えるブースの設置を実施し、観光まちづくりを推進している。誘致対象は訪日後の予定が決まっていない外国人や帰国前に時間を持て余している訪日外国人だ。成田市には古き良き日本の街並みや真言宗の大本山である成田山新勝寺などの観光資源が数多く存在する。観光客でごった返すような有名な観光地とは違い、落ち着いた環境で日本らしさを味わいたいという旅行客にとって絶好の場所だ。宮下氏はこの「空港→地域」の地域活性化モデルを成田モデルと呼び、今後他の地域でも展開したいと語る。

Cap:SAMURAI MEETUPSの事業構造

 ■何をして死にたい?
 宮下氏は講演後、参加者に対して2つの問いを投げかけた。1つ目の問いは「日本の好きな地域の、未来予想図について語る」というものだ。参加者は関東、近畿、中四国といったように地域別で分けられ、語り合った。筆者が参加したグループは中四国+九州グループ、メンバーの出身地域はそれぞれ島根、香川、徳島、福岡、中国(福岡に在住歴有)だった。それぞれの未来予想図は以下のようなものだった。
‐「最近は観光客が増えてきた、国際的な街になっているかな」(福岡)
‐「四国八十八か所はポテンシャルがある、スペインのサンディエゴ巡礼になれる」(香川)
‐「サテライトオフィスが増えているし、ITで一花咲かせてほしい」(徳島)
‐「縁結びがグローバルワードになってほしい」(島根)
‐「海外では九州という言葉そのものが認知されていない、自分が九州=日本というイメージを広げたい」(中国)
 皆がそれぞれの思う未来予想図を共有し、場が温まったところで、2つ目の問いが投げかけられた。「自分の死亡記事を書きましょう」という少し突飛なものだった。自分が何歳で死ぬか、死ぬまでにどのようなことが起こり何を成し遂げるのかをワークシートに記入し、グループでシェアした。
‐「昔はずっとロボットをいじっていた、その熱を抑えたまま死ねない。また、身内が認知症になり、認知症というものが身近なものだと感じた。ロボットで認知症を治せないか試したい」(福岡)
‐「四国サンディエゴ計画を成し遂げたい、70代になったら一線を退いて若い人のサポートと四国の人口増に尽力したい。」(香川)
‐「教授になって、教科書に自分の名前が載るまでは死ねない、70までにはなんとかしたい」(徳島)
‐「enmusubiを広めたい、80までに縁結びカフェをスターバックス並みの世界的チェーンにしたい」(島根)
‐「現在起業準備中で、SAMURAI MEETUPSと同じくインバウンドの会社を立ち上げる。40までに九州=日本のイメージを世界中に浸透させたい」(中国)
 自分の死亡記事と聞いて最初は訝しがっていた参加者も、自身の最終目標を語り始めると高揚感を覚えたようだ。TIP*Sに集う人たちは、常に成し遂げたい何かがある。今日のイベントも、互いが互いの夢を認め合い、背中を押しあうように、参加者全員が自身の持つ前向きなエネルギーを分かち合い、それをさらに大きなパワーに変えている、そんな印象だった。

Cap:自分死亡記事の例

                                    (文:酒巻 徹)