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【レポート】考える!「社会課題をビジネスで解決する」~CSV経営に挑戦する経営者との対話から~第9回ゲスト:会宝産業株式会社・近藤 高行さん

2018.05.21(月)

19:00-21:00

レポート詳細

TIP*Sでは2か月に1度、社会課題に対して「ビジネスで解決する」ということをテーマに、さまざまな企業や活躍する方をお招きして取組みや思考を学び、参加者と一緒に考えながら社会課題解決のヒントを得る時間をつくってきました。

第9回目となる今回のゲストは、会宝産業株式会社代表取締役社長の近藤高行さん。
自動車を解体して中古のリユース自動車部品を世界85カ国に販売するグローバル企業です。

今回は、会宝産業の取組みや父から受け継ぎ二代目社長となった近藤さんの経験や想いをお聞きしました。そして「人を大切にする会社」としても知られている同社が社会課題にどう向き合っているのかを知る時間となりました。

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■「静脈産業」を構築する、その使命感

この日TIP*Sに集まった参加者はおよそ50名。月曜の夜にもかかわらず、仕事終わりに集まった参加者の熱気に包まれていました。テーマでもある「社会課題をどうビジネスにしていくのか」に関心を持つ方が多くいたようです。

そんな中登壇した近藤さんは、眼鏡の似合う爽やかな表情が印象的。



▲トークセッションの進行を担当される竹内先生(左)、ゲスト近藤社長(右)



「解体屋と聞くと、どんなイメージをお持ちですか?」

近藤さんのこんな言葉から始まりました。解体屋さんと聞くと「汚い、(体力的に)きつい、ちょっとやんちゃ」という印象がかつては確かにあったと、近藤さんは言います。「『静脈産業』の印象を変えたい」という想いで会宝産業はさまざまな取組みをしてきました。

「静脈産業」とは、産業の循環を血液循環に例えて表現しています。メーカーや製造業など製品を生み出していくのは「動脈産業」、廃棄物を回収して処理・処分や再利用し再資源化するのを「静脈産業」と呼んでいます。
動脈産業と静脈産業は並列であるべきで、循環していくことが大切。今、上手に循環させていく社会の仕組みが求められています。

会宝産業では海外をターゲットとしたビジネス展開をしています。同社の売上の75%は海外輸出が占めているのだそう。
新車のディーラー、中古車販売店、リース会社、一般のお客様などから廃車や中古車を買い取って部品として仕分け、自動車エンジンを中心に海外85か国への輸出、また車のボディーを素材として販売することも行っています。




▲「静脈産業」への熱い想いを語る近藤さん

 

日本では少子高齢化により人口減少が起きているため、それに比例して車の販売台数も減少し、国内では同業他社との競争が激しくなっていきます。現に、10年前は4,800社あると言われた同業者が今1,000社近く減少している状況を聞いて理解できます。
一方で、海外に目を向けてみると人口は増加しています。車の販売が見込め、最終的に廃車を適正に処理する必要が出てくるので部品の需要も高まります。だから、会宝産業はいち早く海外での挑戦を選択して取り組んできました。

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近藤さんの話に惹き込まれ、静脈産業や会宝産業の海外の捉え方を知っていくことで、だんだんと意義やイメージの変化が起こってきました。ここからさらに、会社としての取組みやそこにかける想いへとつながっていきます。


■業界統一の品質基準「JRS」の確立、そして伝えていくこと

かつて「解体屋」と呼ばれていた時代、国内で販売できないエンジンは見た目の信用だけで海外のバイヤーに売られている状況があったのだそう。性能に不安を抱いたバイヤーが再び日本に買い付けにやってくると、今度は価格をたたくようになる。そういった攻防の歴史を変えようと、現会長が品質基準を作ることにしました。
そして2010年、中古エンジンの性能評価基準「JRS(ジャパン・リユース・スタンダード)」が誕生しました。品質基準が明確になり、お客様の安心につながるとともに、基準を満たさないものは鉄やアルミといった素材に変えて販売し、環境に配慮した無駄のない仕組みを作り上げました。
さらに、会宝産業は自社にとどまらず「JRS」を開示することで「静脈産業」の引き上げに一役買っています。
そこから、発展途上国においての環境保全の教育へと発展していきます。

発展途上国にも車の解体はありますが、残念ながら環境を配慮した取組みができていない現状があります。「国が違うからいいのではなく、地球はひとつの球体。地球人としてみていなければならない」と近藤さんは環境保全に対する危機感を抱き「今後は自動車リサイクルのグローバルFC事業を拡大していきたい」と言います。

会宝産業は、日本に確立された『静脈産業』を海外にも伝えるため現地で指導する、教育するということをすでに始めています。自動車リサイクル工場設備、生産工程、リサイクル技術・経営ノウハウなど自動車リサイクルシステムの提供を、現地の政府・民間企業と協働してサポートしています。環境保全はもちろんのこと、現地の雇用促進にもつながっています。

こうした同社の地道な取組みが評価され、昨年12月には持続可能な開発目標(SDGs)に取組む日本の先進事例を表彰するビジネスアワードにおいて、「エコシステム賞」を受賞しました。また、受賞をきっかけに国連開発計画(UNDP)が行う「ビジネス行動要請(BCtA)」にも加盟することになりました。これまで加盟する10社の名だたる日本企業は、みないわゆる「動脈産業」の企業でした。会宝産業は「静脈産業」として初の認定となったのです。

「ようやく『静脈産業』が脚光を浴びるようになってきた。何かが生み出されれば誰かが後始末をしていく必要があり、その活動自体が社会貢献になる。これからさらに、日本国内にとどまらず、後始末の精神を伝えていきたい」

近藤さんは受賞の喜びとともに、より気を引き締めながら、「静脈産業」の未来に対する強い想いを伝えてくださいました。


■「しつけ」を大切にする

近藤社長の講話の中で、同社の事業が興味深いことはもちろんですが話を伺っていて印象的だったのは社内での取り組みについて。

会宝産業では「あいさつ日本一」「きれいな工場世界一」を目指しているのだそう。その中で、社員が行う「トイレ掃除」、社員同士が伝え合う「ありがとうカード」、「社内勉強会」、「自社お祭り企画」、早朝に自主的に集まり行う「社用車のWAX清掃」、社員が取り組んだことに対する評価を行う「いいね!プロジェクト」といった取組みを行っています。

▲竹内先生による近藤さんとのトークセッション

 

例えば「いいね!プロジェクト」は、お客様からお褒めの言葉をいただいたことに対して会社がただ把握するのではなく、社員に対してしっかりフィードバックしてあげようという考えのもとスタートしました。社員からしてみると、お客様も会社も自分自身のことを見ていてくれているという嬉しさ、仕事へのやりがい、会社への満足度につながっていきます。
ほかにも、社員として必要な心構えとする「会宝人十か条」を策定した際も、トップダウンで決定するのではなく、社員を巻き込み考えていくボトムアップのスタイルで作られました。
事業を継続するにあたって、業績は常に右肩上がりというわけではありません。「だからこそ、下がってきたら何かをきっかけに上がっていこうとする社内の仕組みと浸透させていく『しつけ』が大事だ」と社員から学んだと近藤社長は言います。
会社として社員を大切にしたいという想い、そして社員一人ひとりの自主性を重んじていることが非常によくわかりました。

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最後は、近藤さんの話をお聴きして各グループで感じたことやもっと聞きたかったことをシェアし合いました。「ネガティブに捉えられていたものをポジティブに変えていく面白さを学んだ」「自分自身の仕事も海外に目を向けてやってみたいと思った」そんな声が聞こえてきました。参加者同士が語り合う場面がみられ、近藤さんの話から前に進む意欲が高まったようです。
近藤さんの講話や参加者との対話を通して、会宝産業が「与えること」をマインドとして大切にしていると感じました。
社会の課題をビジネスにして、自社だけで完結するのではなく業界や世界に解決を提示して全体を引き上げていく。そして、会社を支える仲間にも自主性を尊重する。「与えること」によって、また見える景色も変わってくると学びました。
この日、静脈産業のイメージが変わり、そして「社会課題をビジネスにしてみよう」「今あるビジネスを通して社会貢献できるようにしたい」と気持ちが高まった参加者も多かったでしょう。

知らないことを知ること、わかっていたとしてもまた違う視点を学べること、参加者と対話をしてさらに深めていくといったことから、自分なりの「気づき」や「きっかけ」が生まれると実感しました。

▲参加者の方が講話内容をイラストで表現

(レポート:草野 明日香)