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【レポート】第3回ゲスト:株式会社とくし丸・住友達也さん 「社会課題をビジネスで解決する」〜CSV経営に挑戦する経営者との対話から〜

2017.04.17(月)

19:00-21:00

レポート詳細

■地域が抱える「買い物難民」

 今回のイベントは「社会課題をビジネスで解決する」をテーマに、高齢化と過疎化で日常の買い物が困難になった人たちを対象に移動スーパーを運営する「株式会社とくし丸」の住友達也社長をゲストに迎え開催された。

 住友氏は、初めに地方都市が抱える現在の問題について語った。地方都市では地元の小売店が大手資本により閉業に追い込まれ、公共交通機関が未発達なために高齢者が買い物に出かける手段がない。これは車中心の社会を作り上げて来た弊害だと住友氏は指摘する。住む人が少なければ税収も少なく、交通インフラを整備する余裕もない。すると、地域に住み続けている人たちの交通手段は必然的に車や原付、自転車といった自前で用意できるものになる。地方ではほとんどの人が車を持っているため、平日は仕事だが、休日には郊外のショッピングモールに行き1週間分の買い物をすると言う生活スタイルが一般的だ。郊外まで車で行き、日用品や食品をまとめて大量に購入することは、若く元気な人たちにとってはなんでもないことかもしれないが、高齢者にとっては過酷な作業だ。近所に小売店はなく、郊外の大型店舗にも行けない、買い物をするすべのない高齢者たち。住友氏は、彼らを「買い物難民」と呼んでいる。

■ビジネスが先か、社会貢献が先か

 高齢化というメガトレンドは今後加速し、買い物難民はさらに増えていく。住友氏はそこにビジネスチャンスを見出した。同氏は現在のビジネスを始める以前、多くの高齢者に買い物についてインタビューを行い、以下のような高齢者が抱える買い物に関する課題を洗い出した。
 ・ネットスーパーを利用できる高齢者はほとんどいない
 ・弁当の宅配は便利だが、同じ業者から買い続けるとすぐに飽きる
 ・生協も同じような事業をしているが、届くまで1週間かかり、その間に何を注文したか忘れてしまう
 ・息子や娘に連れて行ってもらったり、頼んで買い物してもらったりするのは申し訳ないし、頼んだものと違うものを買ってくることがある
 ・自分のペースで、自分の目で見て買い物をしたい

 これらの調査結果を踏まえ、住友氏は既存のサービスでは満たしきれていない高齢者のニーズを満たし、かつ収益を上げられるビジネスモデルはないかと突き詰めていった結果、地域密着型の移動スーパー「とくし丸」の構想が生まれた。一見、社会課題の解決策として考案されたビジネスのように見えるが、住友氏の発想はニーズに対して利益構造をきちんと創るというところに根ざしている。マクロ環境を読み、機先を制すことは経営戦略のセオリーで在り、社会課題の解決という命題が先にあったわけではない、と住友氏も明言している。「ソーシャルビジネスという言葉があるが、世の中の全てのビジネスはソーシャルビジネスだ。誰かの役に立てばその誰かがペイしてくれる。自分は社会貢献よりもビジネスとしてこの事業を始めたし、誰もやっていなくて、確実に伸びる市場が目の前にあるのに、なぜ手を出さないのか。結果として社会に役に立てばうれしい」と語る住友氏の言葉はあくまでビジネスとして追求する実業家の厳しい姿勢が感じられた。社会にあるニーズに応えていくことに加えて地域社会と利益をきちんと分け合えるシステムをつくることで持続的なビジネスが可能となる。地方での企業は社会課題の解決ありきで語られることが多いなか、住友氏の筋の通ったビジネス論理は、今後地方で起業しようと考えている参加者たちにとって大きな刺激となったのは間違いない。

 とくし丸が提供している価値は、単に外出せずに物が買えるというものだけではない。街中を走る軽トラは、地域のコミュニケーションを促す媒体になり、さらに地域を見守る存在になっている。とくし丸を利用する高齢者にとって、3日に1度訪れる同社のドライバーは良き話し相手であり、住友氏の言葉を借りるなら、高齢者の好みを深く理解した「おばあちゃんのコンシェルジュ」だ。さらに、ともすれば家族よりも頻繁に高齢者のもとに訪れるとくし丸のドライバーは、彼らの異変に真っ先に築くことができる地域の見守り役としての役割も担っており。実際に病院に通報した例もあるという。

 

■皆、真剣!  

住友氏の講演が終わり、各班で感想をシェアする時間が設けられた。「社会課題を解決しつつも、あくまでビジネス視点だと言い切る社長の姿に感銘を受けた」「企業に入るとうまい稼ぎ方を追求しがちで、消費者のニーズを知ることに疎くなる」といったように、新しいビジネスモデルの話題や住友氏の考え方に関する感想、自身への反省など様々な意見が飛び交った。

 

 ひとしきり感想を語り合った後に設けられた住友氏への質問タイムでは、司会が困惑するほど、我先にと会場のいたるところで手が挙がった。参加者から投げかけられる質問に対し、一つひとつ丁寧に回答していた住友氏だったが、イベント終了間際に「正直にいうとTIP*Sという組織を理解していなかったし、ふわふわしたやつらが来たら説教してやろうと思っていた。でも参加者は皆真剣で、誠意を持って接しなければならないと感じ、そうした」と、自身の対応の背景について正直に話し、会場の笑いを誘っていた。

 「社会課題を解決しなければ!」と前のめりになるよりも、ニーズに対してビジネスに徹して向き合うほうが斬新なアイデアが生まれるのかもしれない。今回のイベントは、社会的課題の解決を目指す人にとって、ビジネスとしての成功の秘訣を示唆する興味深いものとなった。



(文:酒巻  徹)