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【レポート】新しい“地方-中央”のカタチ

2015.08.24(月)

レポート詳細

――ネオ県人会と「出身地day」

■ネオ東京/ネオ県人会
“ネオ県人会”という名称を聞いたことはあるでしょうか。

県人会といえば、東京などで地元の名士、長老を中心に出身者たちが集まり、定期的に会合をして、パーティーをして……というイメージを持つ人が多いでしょう。30年も前には、どこに行っても県人会があり、同郷の出身者はお互いに助け合ったものです(その意味で優れたセーフティネットでもあったわけですが)。しかし、20年ほど前から若年層の県人会離れが進み、全体的に活動が低迷しています。

ネオ県人会は、そうした県人会の低迷と地域活性化の機運の高まり、ネットの発達を背景に日本財団のCANPANプロジェクトによって提唱され、動き始めた地方創生ムーブメントのひとつです。大友克洋の『AKIRA』で出た“ネオ東京”にちなみ、「ネオ県人会」と名付けられたそう。ネオ県人会の旗の下、全国の出身者の面々が一堂に会するイベント「出身地day」が、2013年にスタートしていますが、その第5回目が8月24日にTIP*S/3×3Laboで開催されました。

■「地方」の時代へ
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ネオ県人会に厳密な定義はありません。CANPANの代表理事・山田泰久氏によると、ゆるやかに「SNSを利用した、主に20~30代の地方出身者たちの集まり」を“ネオ県人会”と呼んでいるとのこと。NPOもあれば任意団体もあるし、単なる同郷出身者たちの“飲み会”に過ぎない集まりもあります。地方創生に向けて具体的なアクションをしている団体もあれば、ゆるやかなプラットフォームとして機能している団体もある。つまり、“なんでもいい”のです、出身地、地元を愛する心さえあれば。第5回目にして初めて、47都道府県からの参加があり、286名という、TIP*S/3×3Labo史上、もっとも多くの参加者が来場するイベントとなり、改めて「地方」がこれからの日本を考える大きなムーブメントになっていることを感じさせました。

この日は、「ネオ県人会を始めたばかりの団体」、「ある程度まで基盤ができて、これからアクションへと移る団体」、「すでに活動を起こしている団体」の3タイプのネオ県人会が、現状を報告するプレゼンテーションを行い、その後同じ出身地同士で集まって地方の魅力やそれぞれの取り組みをディスカッションする「出身地カフェ」、さまざまなテーマでディスカッションする「全国カフェ」が行われました。

冒頭では、スペシャルゲストとして石破地方創生大臣も登場、「地方創生への思い」と題した講演を行っています。

石破大臣は高校で鳥取から上京し、寂しさのあまり、夜の東京駅で特急いずもの発着プラットフォームに行き、地元の人々の話す言葉に耳を傾けた思い出などを披露。「自分の生まれた県が好きで、いいところだ!と思う気持ちが大切だ」と話し、地元を愛する若年層が集まるネオ県人会への期待を語りました。
また、東京への一極集中と、世界でも類を見ない超高齢化社会に突入していく中で、「東京だけが残るということは、国家としてありえない。誰かに任せておいて良いという時代ではない。日本を変えるのは中央ではなく、地方ではないか」と参加者たちに地方創生の重要性を訴えました。

また、講演では、地方での雇用創出や大企業の移転の可能性、デービット・アトキンソンが提唱する「新観光立国」と、ネットを基盤にした情報発信など具体的な事例や方策など、これからのネオ県人会や地方創生へのアクションへのヒントも示されています。

■刺激的な各団体のプレゼン
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プレゼンテーションには、「ツナグ茨城」(茨城県)「鳥取ファンを増やす会」(鳥取県)「同郷フェスティバル」(石川県)「大分人祭り」(大分県)「在京若手長崎県人会 しんかめ」の5団体が登場し、それぞれの活動をレポートしました。

ツナグ茨城、鳥取ファンを増やす会は、出身者が集まるプラットフォーム作りをしている段階でのレポート。きっかけから発足の流れ、そして今やっている“飲み会”の様子などを発表。石川県の同郷フェスティバルは、「東京で同郷を楽しむ」を合言葉に、一歩進んだフェーズで「ただの飲み会はしない」「声を聴く」ことを大切に、石川県の魅力発信、東京から石川県を面白くするための活動を行っているそうです。

大分人祭りは、2009年にイベントの形で発足し、2012年に東京都認定のNPO法人に。大分と東京をつなぐハブになることを目的に大分出身者の交流イベントを行っていますが、2012年の九州北部豪雨の被災地支援など“できること”にはなんでも挑戦しているとのこと。交流プラットフォームから具体的なアクションを起こす素地が出来上がっている好例のひとつでしょう。そのあたりのコンセプトをより明確にして活動しているのが長崎のしんかめだ。「長崎を思い出す」「長崎を好きになる」「長崎のために何かしたくなる」そして「東京から長崎を面白くする」をミッションに活動を展開しているそうですが、このスキームは分かりやすく汎用性があります。今は「多様性」をキーワードに、他の県人会とのコラボレーション(対決!?)を呼びかけているなど、興味深い活動に取り組んでいます。

■本当の「地方の時代」にするために
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出身地カフェ、全国カフェでは、会場の至るところで集まって、熱い議論が交わされました。全国カフェでは「ネオ県人会の始め方」「行政と連携したネオ県人会」「地元企業と連携して東京でイベントなどを開催しているネオ県人会」などの運営上のスキームを扱うものから、「映画づくりでまちづくり」「クラウドファンディング」など実践的なテクニカルな話題まで13テーマが設定されています。NPO法人ETICの「地域での仕事作り・活性化」、「クラウドファンディング」などのテーマが特に人気を集めていたようでした。

主宰するCANPAN代表理事の山田氏は、ネオ県人会、出身地dayを通して「各地のNPO、市民活動の活性化すれば」と話しており、さらに「価値創造型のNPO創出のきっかけ」になることにも期待しているそうです。CANPANは各地のNPOの支援を行っていますが、NPOは資金面を中心に持続的な活動を行うことに問題を抱えていることが少なくありません。ソーシャルセクターの活動が活性化するためにも、NPOがより価値創造型になることが期待されるのでしょう。

提携するTIP*Sおよび中小企業整備基盤機構も、地方の中小企業活性化のためにも、さまざまな形で地方の活性化が進むことが望ましいとしています。TIP*Sの岡田氏は「これまでは地方と東京は対立する構造の中で語られてきたが、そんな一元的な構図ではなく、地方と中央が“循環”する形になれば、皆がもっとハッピーになれるのでは」と話しており、出身地day、ネオ県人会は「大きなポテンシャルを感じる」と今後の活動への期待を語りました。

また、山田氏が「活動に向けたプラットフォーム以前の段階」であり、「大いなる社会実験のようなもの」と語るように、ネオ県人会は、まだまだ“これから”のものとも言えるようです。また、筆者の印象として、「ネオ県人会」は “使える”とも言えるように思えます。在京の人間がこれからアクションを起こす際に「ネオ県人会」という言葉は地元の人から見ても“分かりやすい”。東京と地元をつなぐ、ひとつのキーワードになるのではないでしょうか。これから地方をフィールドにしたアクションを起こそうと考えている人は、一度ジョインしてみては。(文:土屋 季之)

協力:エコッツェリア協会