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TIP*S(ティップス)は、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する全国の中小企業や小規模事業者、起業に関心がある方などのための場所です。さまざまなワークショップや講座、イベントなどを実施しています。

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レポート POST

TIP*S POST vol17 こぼれ話

TIP*S POST こぼれ話

2020.10.22 (木)

このページでは、広報誌「TIP*S POST」に書ききれなかった内容を掲載します。
今回は、8月18日(火)に丸の内TIP*Sで行われた【<地域との関わりを考える>~祖父から引き継いだタクシー会社と自ら立ち上げた飲食店で埼玉をもりあげる~ゲスト:日栄交通株式会社 常務取締役 清水雄一郎さん】の開催レポートを参加者やゲスト・ファシリテーターの声を交え、掲載しています!

レポート詳細

【レポート】<地域との関わりを考える>~祖父から引き継いだタクシー会社と自ら立ち上げた飲食店で埼玉をもりあげる~ゲスト:日栄交通株式会社 常務取締役 清水雄一郎さん 

 

“地域”はTIP*Sにとって外せないキーワード。地元に根ざした事業や取り組みで活躍するゲストのストーリーを聞き、対話を通じて新たなアクションに向けたヒントを探るワークショップを、毎年シリーズでお届けしています。 

そして今年度(2020年度)は、関東圏で活躍するコーディネーターのみなさんが、地域の逸材を発掘。気の置けない間柄のゲストと、本音トークを繰り広げていきます本稿では8月18日に開催した、シリーズ第弾の様子をご紹介します。 

 

“もっと注目されるべき”地元の星 

コーディネーターを務めたのは、株式会社コミュニティコム 代表取締役星野邦敏さん。さいたま市でWEB制作と不動産事業を手がけています。星野さんの会社運営する「大宮経済新聞」と「浦和経済新聞」では、これまで2000を超えるローカルニュースを投稿編集長である星野さん地元の情報通です。また大宮駅前でシェアオフィスや空き店舗を活用したシェアキッチンを営むなど、地域と人とをつなぐ仕掛けづくりにも果敢に取り組んでいます。 

その星野さんがゲストに選んだのが、日栄交通株式会社 常務取締役で株式会社アバントラフ 代表取締役の清水雄一郎さんです。30歳でお祖父さまが営んでいたタクシー会社を事業継承し、その後もICTを駆使した配車代行会社の設立、今年に入ってからは燻製バーをオープンさせるなど、地元さいたま市を拠点に精力的に活動しています。

星野さん「清水さんは、実行力と常識にとらわれない柔軟性がとにかくすごい。もっと世の中に注目されてもいいのに! と、つねづね感じていました。彼のバイタリティに、みなさんきっと驚くことと思います」この日の丸の内には、地域参加に関心を寄せる人が多く集まりました。なかには清水さんと同じ地元に住んでいて、ごの話をじっくり聞けるとやって来た人もいます。

さっそく清水さんによる、プレゼンテーションが始まりました。

 

全力で生きると決めた旅先での出会い

清水さんは自己紹介の後、自身の生き方を決定づけた3つの出来事を取り上げました。

ひとつめは彼女にフラれた二十歳の頃、ヒッチハイクで日本一周の旅を始めます。特に四国では、ギター片手にお遍路巡りにチャレンジしました。1200kmの道のりを歩くだけでも大変だというのに、旅費はストリートライブでの投げ銭だけが頼り。時にホームレスのおじさんにお世話になり、またある時は明け方のコンビニに出向き、売れ残って捨てられた食べ物で空腹を凌ぐという、まさにサバイバルな旅程でした。

けれどもそうした状況をも楽しめてしまうのが、清水さんの凄いところ。あるとき2つのルートに分かれるポイントで、覚醒の瞬間が訪れます。清水さん「そこでは舗装されたトンネルの道か、明らかに険しい獣道のどちらかを選ぶのですが、看板の『あなたは苦を選ぶか、それとも楽を選ぶか』という標語が目について仕方がない。よぉし、それなら俺は獣道を選ぶ人生を送る! と、このとき腹を括ったんです」

ふたつめの出来事は、やはり失恋の痛手を背負い、25歳でインドとパキスタンを訪れたときのことです。観光客を乗せてはわざと遠回りして土産物店に連れて行くタクシー運転手や、物売りをする同世代の兄弟らとの出会いは、清水さんの心を大きく揺さぶります。

清水さん「僕ら日本人は、明日が来るのが当然のように生活しているけれど、彼らはそうじゃない。毎日を必死に生きていて、その姿にショックを受けました。そして俺は何て生ぬるい生き方をしているんだ! と思い知らされました」

日本に住んでいれば、何をやったって滅多に死ぬことはない。それなら全力で生きるべきだと考えた清水さんは、帰国後間もなくして子どもの頃から憧れていた起業を決意。自分でリフォーム会社を興します。ところがその5年後、自体は一変。それが3つめの出来事です。

清水さん「闘病中の祖父のもとへお見舞いに行ったとき、祖父が私の手を握り、『どうかタクシー会社だけは継いでくれないか』と言ったんです。それまでお前の好きなように生きろと、事業承継の話などしたこともなかったのに。でも祖父の命もあと一週間だと聞いていたから、そのときは『任せて!』としか言いようがなかったですね」それまで好調だったリフォーム会社は畳み、まったく興味のなかったタクシー会社の経営に専念することにしました。しかし一度やると決めたら、とことんやるのが清水さん流。新参者であることを逆手に取り、組織風土の改革に着手します。若手ドライバーの積極的な採用に、家事をサポートする便利タクシーや陣痛タクシーなど新サービス開始、ロゴのリニューアルや新車種の導入など、街に馴染み、親しみのある企業へと変えていきました。

清水さん「私の事業承継のテーマは、スクラップ&ビルドです。昔は必要だったが今はそうでもないという慣習や仕組みの見直しに、最も力を注いで来ました。もちろん、反発がなかったわけではありません。先代からのドライバーのうち、7割が退職していきました」

しかし清水さんは、自身の理屈だけで動いていたわけではありません。全国の先進的なタクシー会社を見つけては現地視察に出向き、貪欲にアイデアを吸収していったのです。

そして配車代行事業を立ち上げたのも、技術を開発した徳島のタクシー会社の社長に会いに行ったのがきっかけでした。社長とは同じ跡継ぎ同士で意気投合、さらにひょんなことから社長がかつてのお遍路巡りでお世話になった、ホームレスのおじさんの従妹甥(いとこおい)であるとわかったのです。

人の縁を感じたら、いてもたってもいられないという清水さん。燻製バーを開いたのも、清水さんの先輩が自分の店を閉めることになり、テナントの後継者を探していたからです。

清水さん「結局いろんな出会いと運が、今につながっているんですよね。そう考えると、行動なしには何も始まらない。特に創業についていえば、1にも2にも、3にもアクションだと思います。ただ最近は、数字の重要性を突きつけられることも多いですが……。これからは、“ロマンと算盤”をテーマに走り続けていきます!」

 

残りの人生で何をしたいか考えてみよう

質問タイムに入ると、参加者の手が次々と挙がりました。途中、気づきをシェアする時間を挟み、星野さんとのトークパートに入っても、清水さんへの質問は止むことがありません。

 

参加者「7割もの社員が辞めたとなると、いろんなご苦労があったのでは?」

清水さん「一度にではなく、徐々に入れ替わっていった結果ですね。採用では、あえて未経験者を積極的に採用しています。いい意味で業界に染まっていなくて、組織の多様性にもつながっています」

参加者「のようなライドシェアサービスの脅威とは、どのように戦うつもりですか?」

清水さん「戦うつもりはないですね。むしろ歓迎しています。タクシー業界は、法令に守られ過ぎていると感じるからです。規制緩和と競争自由化を促し、会社ごとの個性で勝負できる業界にならなければ、お客様からはそっぽを向かれ、やがて廃れてしまうでしょう。政治面において風穴を開けるのも、二代目の役割だと認識しています」

 

参加者「新しいことを始めるときは、どんなことを基準にしていますか

清水さん「ひとつは地域や世の中の課題解決につながること、もうひとつはエンターテインメント性があることです。この2軸を満たしたうえで『やりたい!』と思ったときには、既に動き出しています(笑)」

星野さん「燻製バーも、よくやろうと決めましたよね」

清水さん「もう勢いですよね(笑)。でもオープンした途端に新型コロナの影響を受けてしまったので、運営方法を見直しているところです。せっかくですから、何かしらの形で続けていきたいと思っています」

と話を進めるうち、話題は“死ぬまでに実現したいこと”に。今日集まった人たちに聞いてみたいと、清水さんからまさかの逆質問です。

 

清水さん「やりたいことがはっきりすれば、小さくても一歩を踏み出せるでしょう? ですからこの時間を使って、考えてみてほしいんです。私は残りの人生で、さいたまに音楽フェスもできるような人口のビーチをつくりたい! そこで大好きなサーフィンをするんです」

意外な展開に驚きながらも、参加者のみなさんも真剣に考えます。

星野さん「では今日の感想も交えながら、一人ずつ発表しましょう」

清水さんの行動力と実行力に驚いた、元気をもらったといった声と共に、「いつか海外を放浪したい」「アメリカに住みたい」「旅の写真で個展を開きたい」「日本を、ブータンを越える幸せの国にしたい」「老朽化で塗装の消えた横断歩道を民間の手で修復できないか、ネットで情報発信するなどアクション」と参加者のみなさんの“死ぬまでに実現したいことは”いずれも希望に満ちたもので、聞いているだけでワクワクしてきます。

清水さん「みなさんの思いを聞けて、とっても嬉しい。ぜひ一歩を踏み出してもらえればと思います。ところで、星野さんの死ぬまでに実現したいことは何ですか?」

星野さん「これから増えるであろう、有休耕作地や空き家の再生モデルをつくることかな。考えたケースを誰かが再現したり、私たちで2例目3例目と面白いと思っています。お、あっという間に時間になりました。今日はありがとうございました」

 

程よい距離感のもと、ライブ感たっぷりのワークショップとなりました。

 

〈清水さんのコメント〉

小さなことでも一歩を踏み出すことの楽しさやワクワク感、熱いエネルギーを感じてもらえればと、みなさんの背中を押すつもりで臨んだので、一人ひとりの“死ぬまでにしたいこと”を聞けたのは嬉しかったです。事業にかける想いやルーツについて人前で話すのは初めてのことだったので、私自身にとってもいい振り返りになりました。

〈星野さんのコメント〉

いくら地元が一緒で経営者どうしであっても、じっくりと話を聞くことはなかなかないもの。改めて清水さんがどのような思いで事業を受け継ぎ、地域と関係を築いているのかを知ることができて面白かったです。今回のイベントをきっかけに、清水さんがより注目されることを期待しています。